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タブノキ/たぶのき/椨の木

Tabunoki tree

たぶのき,タブノキ,大きさ
タブノキは成長が早く、大木が多い

 

【タブノキとは】

・北海道、青森及び岩手を除く日本全国に分布するクスノキ科の常緑樹。暖地の海岸沿いに多いが、公園や庭園に植栽されることもある。漢字表記は「椨」だが、本来、中国では「楠(日本ではクスノキ)」と表し、南方系の樹木であることが分かる。日本以外では中国南部、韓国(済州島のみ)、フィリピンなどに見られる。

 

・名前の由来には諸説あるが、古代朝鮮語で丸木舟を表す「トンバイ」がタブに転訛したとする説が有力。また、日本書紀に登場するほど神事との関連が深く、「霊(たま)が宿る木」を意味する「タマノキ」から転訛したという説もある。

 

・タブノキは幹が真っすぐに伸び、樹高が最大30m、直径が3.5mにもなることから、船を作るのに使われる。古代に朝鮮半島から渡来した丸木船は全てタブノキで造られたほど日韓交易に貢献している。

 

・材質はやや硬くクスノキに似るが、クスノキに比べて用途が少ないため「イヌグス」という別名がある。建築、家具、枕木、彫刻、パルプ、器具(臼や木鉢)、薪炭に利用され、その歴史は縄文時代まで遡る。

 

・材の色合には個体差があるが、より良質とされる赤みを帯びたタブ材をベニタブ、白っぽいものをシロタブと呼んで区別する。中には木目に巻雲紋が出るような老木があり、これを特に「タマグス」と呼んで珍重する。 

 

・タブノキは耐潮性に優れ、地下に海水が浸入するような土地や波打際でも育つ。このため、魚群を追い込んで捕獲する「魚つき林」として使われ、各地の海辺にはその名残となる大木が多い。

椨,新芽,たぶのき
タブノキの冬芽はクスノキに似るが・・・
たぶのき,椨の木,冬芽
より大きくなって、ドングリのように目立つ
椨,新芽,たぶのき
新芽の基部は赤く染まって花のように見える
タブノキとクスノキ
次第に赤みはなくなり・・・
タブノキ,剪定,たぶのき
新葉がおもいっきり展開する
たぶのき,イヌグス,葉っぱ
マテバシイに似るが、より小さい。クスノキのような葉脈はない
イヌグス,葉っぱ,画像
葉の裏側は白っぽく、マテバシイ(黄色っぽい)とは違う

 

・葉は細長い楕円形で長さは6~15センチ、幅は5センチ前後だが、中央よりやや葉先の方が幅が広い。縁にギザギザがなく、先端は丸みを帯びる。厚い革質で表面には光沢があり、これによって塩害を防いでいる。クスノキと混同される例もあるが、クスノキに特徴的な3本の葉脈はなく、黄色い主脈1本のみが目立つ。葉の形状はマテバシイカゴノキにも似る。

 

・葉は小枝の先に集まって枝から互い違いに生じるが、その密度が高いため防風林や防火樹に使われ、火を伏せる木として信仰されることもある。葉をちぎれば特徴的な香りがあり、かつては蚊取り線香代わりに使われることもあったが、クスノキほどの強い香りではない。 

 

・タブノキが寒さに強いのは冬芽が画像のように「芽鱗」でしっかりと覆われているため。枝先には夏でも大きめの芽があることが多い。葉芽は春になるとまるで別な生き物のようにダイナミックに展開するが、特に早春はピンク色を帯びていて花のように見える。クスノキは春になると短期間で一斉に全ての葉を入れ替える習性を持つが、タブノキは2~3年かけて葉が入れ替わる。

タブノキの花,たぶのき
ツボミはカニの産卵を思わせる
椨の木,開花時期
開花は新葉の展開とほぼ同時期の5月頃
たぶのき,樹木
雌雄同株であり、一つの同じ花が雌花から雄花に変わる
タブノキの花,画像,たぶのき 
花弁は6枚あり、内側の3枚がやや大きい 
たぶのき,開花時期
雄花になった後、一度閉じて再度開く

 

・開花は新葉の展開と同時期の4~5月頃。直径5ミリほどの黄緑色の小さな花が円錐状に群がって咲く。タブノキは雌雄同株であり、始めは花粉が目立たない雌花の性質を持つが、後に雌しべが退化すると今度は花粉を出す雄花の性質を持つようになる。

 

・雄花が終わると一旦閉じた花が再度開き、下の画像のように膨らんだ子房(未熟な果実)が現れる。果実の直径は1センチほどで、始めは緑色だが7~9月頃になると黒紫に熟し、果柄の赤さが目立つようになる。 

 

・タブノキの果実は果肉が少なくエグ味があるものの、食べられなくはない。ムクドリやタヌキなどはこれを好物とし、種子を拡散している。南米原産のアボガドはタブノキと同じクスノキ科(ただしワニナシ属)の樹木であり、日本ではタブノキが最もアボガドの木に近い性質を持つ。

tabunoki
花後はグリーンピースのような実ができて
tabu tree,fruits
剪定せずに放任すれば、たわわに実る
タブノキの実,たぶのき,画像
果実は秋に熟し、野鳥が好んで食べる

 

・樹皮は明るい褐色で皮目と呼ばれるボツボツが点在するが、肌触りは比較的滑らか。老木になるとゴツゴツし、網目状に裂けてくる。粉末にした樹皮(椨粉という)は水に溶かすと糊状になることから線香を作るのに使われた。また、樹皮にはタンニンを多量に含み、これを煎じた汁は染料となり、八丈島の絹織物「黄八丈」を樺色に染める。 

皇居のタブノキ
丹念に剪定されたタブノキ(皇居東御苑)
幹,樹皮,たぶのき
太い枝が横に張り出しやすい(安房神社)
椨 線香
タブノキの樹皮は線香の原料になる

 

【タブノキの育て方のポイント】 

・病害虫に強いがクスノキと同じようにアオスジアゲハの幼虫に葉を食害されることがある。また、乾燥に弱く、夏の暑さが厳しい場所では葉が傷みやすい。

 

・わずかな日照でも光合成を行う性質があり、(特に幼樹は)日陰に強いが、その分、太い枝が横に突き出してゴツゴツした枝ぶりになりやすい。

 

・樹高のわりに幹が太く、安定感があるともいえるが、一般家庭にはあまり馴染まず、管理人は個人の庭園でこれを見たことがない。海近くの街路樹や公園、工場の緑化等に使用するような樹木である。樹勢は強く、時季を間違えなければ剪定には十分に耐える。

 

・茨城県辺りが北限とされるクスノキよりも耐寒性がある。東北地方では温暖な一部の例外地域(山形県遊佐町の吹浦や同県酒田市の飛島、秋田県にかほ市、由利本荘市など)に自生するが、幼木の耐寒性は低い。 

 

【タブノキの品種】 

・別名アオガシと呼ばれる「ホソバタブ」は、その名のとおり葉の幅が細い樹種。タブノキと同様に庭木として使われることはあまりない。(ホソバタブとアオガシは別種とする説もある。) 

 

【タブノキに似ている木】

 マテバシイ クスノキ

 ヤマモモ カゴノキ

 コブガシ オガサワラアオグス

タブノキの基本データ

 

【分類】クスノキ科/タブノキ属

    常緑広葉/高木

【漢字】椨の木(たぶのき)  

【別名】イヌグス/ノグス

    クスタブ/ヤブグス

    タマグス/ツママ

【学名】Machilus thunbergii

【英名】Tabunoki tree

【成長】早い

【移植】やや難しい

【高さ】5m~30m

【用途】公園/防風林/防潮林/防火林

【値段】1,000円~

 

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